「コロニア」のあらすじ
1973年、フライトでチリを訪れたドイツのキャビンアテンダント・レナは、現地に滞在していた恋人・ダニエルと束の間のデートを楽しんでいた。しかし、突如チリ軍部によるクーデターが発生し、ダニエルとともに反体制分子として捕らわれてしまう。捕らわれた人たちはまず軍に拘留され、政治犯を選別したあと解放された。
レナも解放されたが、民主化運動に協力していたダニエルはどこかに連れ去られてしまった。そこでレナは、国際人権団体を訪ね、表向きには農業コミュニティである「コロニア・ディグニダ」という宗教施設にダニエルが監禁されたことを突き止める。じつはそこは「教皇」と呼ばれるパウル・シェーファーがドイツ系移民を中心に設立したピノチェト軍事独裁政権と結びついて、神の名の下に、暴力で住人を支配する恐ろしい施設だった。
レナは、ダニエルを助け出すために、施設に潜入することを決心。命がけでひとりで「コロニア・ディグニダ」に潜入する。ところが施設では男と女、子供は別れて暮らす決まりで、一生離れて暮らさなければならないという。収容者も勤務するものも、二度と外へは出られず、男女が会うチャンスは、唯一大事なお客が来たとき皆で歌って出迎える混合行進のときのみということをレナは知ります。
一方、レナが自分を助けるために施設に潜入していることを知らないダニエルは、ひどい拷問を受けますが、その後は頭がおかしくなったフリをして周りを欺き、油断させ脱出の機会を探ります。
ある日、男が集まる場所へ連れて行かれた仲間を追いかけていき窓から部屋の中を覗いたレナは、そこでダニエルを見つけます。果たして、彼女はダニエルを助けだし、二人で施設から脱出することができるのか、というお話です。
チリ・クーデターとコロニア・ディグニダの史実を基にした衝撃の物語
映画「コロニア」の舞台は、自由選挙によって樹立された史上初の社会主義政権サルバドール・アジェンデ政権に、チリの軍人ピノチェトがクーデターをおこした1973年のチリの首都サンティアゴ・デ・チレです。2015年製作のドイツ、ルクセンブルク、フランスの映画です。
脚本・監督のフローリアン・ガレンベルガーは、ドイツ、ミュンヘンの出身の映画監督、脚本家です。2000年には、「Quiero ser (I want to be …)」で第73回アカデミー短編映画賞を受賞しています。その彼が学校でこの事件のことを勉強し、そこで起きていたことに怒りを覚え、映画化を決めたそうです。
主演はハリーポッターシリーズのハーマイオニー・グレンジャー役でお馴染みのエマ・ワトソンです。最近では「美女と野獣」でベル役も演じていましたね。恋人役はダニエル・ブリュールです。ダニエル・ブリュールは2003年公開のドイツ映画「グッバイ、レーニン」で主人公アレックスを演じヨーロッパ映画賞男優賞を受賞したドイツの俳優です。「ラッシュ/プライドと友情」や「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」などにも出演しています。私が最近観た映画「二ツ星の料理人」にも出ていましたが、そういえば出てたな、という感じの印象です。
そしてこの映画の重要人物、パウル・シェーファーを演じたのはスゥエーデンの俳優、ミカエル・ニクヴィストです。彼は2017年6月にな56歳で亡くなられいます。リュック・ベッソン製作の「クルスク」(2018年フランス、ベルギー、ルクセンブルク)が遺作ということなので、機会があれば観てみたいです。
カップルの絶望感と脱出劇から学ぶ歴史
アマゾンに勧められるままに「帰ってきたヒトラー」と「アイアン・スカイ」という2本の映画を観て、私がドイツという国に持っていた印象からはちょっと想像できない内容に、もう少しドイツ映画を観たくてアマゾンで検索していたところ出会った作品です。先に観た2本の映画とは違い「コロニア」は史実に基づいている、いたって真面目な映画で、安心してというのは変ですが、気持ちのざわざわ感は落ち着きました。
私はこのチリのクーデターの話や「コロニア・ディグニダ」のことはまったく知らなかったのですが、実際の事件や施設をベースにした作品ということで、映画の最後には当時の写真も出てきました。映画の最初の段階で「史実を題材にした物語」という前置きの字幕が出てくるので、「コロニア・ディグニダ」とい施設の恐ろしさや、その施設を設立したパウル・シェーファーに終始恐怖と憤りを覚えながら観ました。
とはいえ、拷問シーンなどは多少ありますが、社会派というほどの重厚さは感じられませんでした。なんだか全体的に人物や建物などが小綺麗な感じがあったからかもしれません。小難しい感じや怖い描写はそれほどないので、観やすい映画ではあるかなと思います。
映画を見終わったあとに知ったことですが、パウル・シェーファーがナチスの残党であるといった話が深く掘り下げていなかったのは残念でした。重くなりすぎないような狙いが監督にあったかなかったかは知りませんが、主人公レナを演じるエマ・ワトソンのあどけなさや、恋人のダニエル役のダニエル・ブリュールの迫力のなさもちょっと映画の内容とは合っていないと思いました。ただ、そのおかげか、最後まで目を背けることもなく、飽きずに観れたし、こういった史実を知るいい機会になったので、総合的には満足です。
最後の最後、大使館へ行ってからの展開は、大使館員に非常にイライラする展開でしたが、優しい同僚パイロット、キャビンアテンダントに恵まれ、とりあえずは見終わったあとの嫌なモヤモヤ感などはなかったので良かったです。個人的には、その後の、国に戻ってからの、この施設のことを公表したあと、ドイツや世界の反響がどんな感じだったか、というようなストーリーも観たかったですが、どうやらチリのクーデターに関してアメリカが関係してくるようで・・・お話はここまで、ということのようです。