「奇蹟がくれた数式」のあらすじ

映画「奇蹟がくれた数式」の舞台は1914年、第一次世界大戦時のイギリスです。

オックスフォード大学に次ぐ古い歴史をもつイギリスの名門校、ケンブリッジ大学の数学者ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディは、遠くインドから届いた一通の手紙に記されていた驚くべき発見に夢中になり、差出人のインド人、港湾事務所事務員シュリニヴァーサ・ラマヌジャンを大学に招きます。

シュリニヴァーサ・ラマヌジャンは妻と母親をインドに残し単身渡英。ハーディと一緒に公式を証明をするため、ケンブリッジ大学で研究を始めます。

しかしラマヌジャンに学歴はなく、数学者としての訓練を受けていないので、閃いた定理に明確な証明を付ける、という意識がなく、また、階級制が強く根付いたイギリス人にとっては、ラマヌジャンは身分も低いことから、他の教授たちに撥ね付けられます。

一方インドに残した妻はラマヌジャンに手紙を書くも、折り合いの悪いラマヌジャンの母親が、ラマヌジャンに送るよう頼まれたその手紙を送ることなく保管します。ラマヌジャンは妻から手紙も届かず、またイギリス人からは差別され、食糧も手に入れにくくなり、またハーディともうまく関係をもつことができず、孤独と過労で病気になってしまいます。

様子がおかしいラマヌジャンのことを心配になったハーディは、より親身になって一緒に研究をし、これまで彼を批判していた教授に彼の優秀さをわからせ、フェロー(特別研究員)にも推薦します。しかし、フェローになることは認められず、ラマヌジャンの病も重くなっていき、とうとう倒れてしまいます。

ラマヌジャンの病気をしったハーディは、ラマヌジャンにこれまでの自分の接し方を謝り、心の内を話しあらためて共同研究を始めます。

ハーディー役のジェレミー・アイアンズが渋い

「奇蹟がくれた数式」は、2016年公開のイギリス映画で、ジャンルは人間ドラマです。『スラムドッグ$ミリオネア』のデブ・パテルが主人公の天才数学者ラマヌジャン役を演じています。ラマヌジャンの苦悩が伝わってくる感じは決しておおげさな感じを受けず良かったです。彼を見い出し たケンブリッジ大学の数学者ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ役を『運命の逆転』でアカデミー主演男優賞を受賞したジェレミー・アイアンズが演じています。決してハーディーは完璧な人物ではないのですが、ジェレミー・アイアンズの声や表情はとても渋くて、かっこいいです。監督、脚本はマシュー・ブラウン、原作はロバート・カニーゲルの『無限の天才 夭逝の数学者・ラマヌジャン』です。

天才ラマヌジャンの一生がきれいにまとまった映画

典型的な文型で、数学や物理などは苦手なので、主人公のシュリニヴァーサ・ラマヌジャンという人をまったく知らなかったけれど、天才数学者のジョン・ナッシュの偉業と成功、統合失調症に苦しむ人生が描かれた「ビューティフル・マインド」や第二次世界大戦中にエニグマ暗号の解読に取り組んだイギリスの暗号解読者アラン・チューリングを描いた「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」がとても面白かったので、そんな感じの映画なのかなと期待して見始めました。

「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」は第二次世界大戦中の話ですが、「奇蹟がくれた数式」は第一次世界大戦中のイギリスが舞台になっていて、イギリスが戦争に参戦する時期の雰囲気も描かれています。

そんな大変な時代にイギリス人とインド人の二人の数学者が周りからなかなか理解が得られずに苦労しながらも一緒に研究する、というような物語ですが、人種差別、戦争、家族関係、数学のことをどれも良くいえばバランス良く、かいつまんでストーリーに組み込まれているといった感じで、夢中で観て深く感動するというような映画ではありませんでした。

ただし、数学や物理が好きな方、主人公のラマヌジャンやハーディについて予備知識がある人にとっては楽しめる映画だと思います。たとえば他の登場人物も著名人で、リトルウッドはハーディとの共同研究を長年行っていた人だそうです。観終えたあとにリトルウッドのことを調べてみると、ある学者はリトルウッドが本当に存在していたことに驚いた、というようなエピソードがあり、それを知って、ちょっとした場面でのセリフに、なるほど、そうだったのかと思いました。

他にも1950年にノーベル文学賞を受賞したイギリスの哲学者、論理学者、数学者のバートランド・ラッセルも登場します。ラッセルは平和運動、婦人解放運動に熱中したため、ケンブリッジ大学を解任されています。ちなみにラッセルは親交のあったアルベルト・アインシュタインと核廃絶に関する「ラッセル=アインシュタイン宣言」を発表しているそうで、実はすごい人物なんだな、と映画を観た後で知りました。

直感によって理論が閃き、導き出されるというラマヌジャンの天才の苦悩や、徹底したヒンドゥー教の宗教教育を施したという母親との関係などがもう少し描かれても良かったかな、とも思いましたが、何しろ100年前の話で、ラマヌジャンも32才という若さで亡くなっているので、このようなストーリーになったのだろうなと思います。

こんな感じで、「奇蹟がくれた数式」という映画は、難しい数学の内容などがストーリーに関係するわけではないので、誰でも楽しめますが、ある程度、登場人物や歴史などの予備知識がある人はもちろん、知的好奇心がくすぐられるようなタイプの人にとっても、観たあとにいろいろ調べて、それを踏まえてもう一度映画を観ることでより楽しめるだろうな、と感じる教科書のような映画でした。