「ある公爵夫人の生涯」のあらすじ

1774年、イギリス貴族の令嬢ジョージアナが、他の貴族令嬢達と男性貴族の徒競走を賭け合いながら楽しんでいるところを、部屋からデヴォンシャー公爵が見つめていた。

デヴォンシャー公爵はジョージアナの母、レディ・スペンサーと会い、ジョージアナは世継ぎを生むことができるかと問う。レディ・スペンサーは、我が家系は問題ないと言い、公爵はジョージアナと結婚することを決める。

ジョージアナは母から呼び出され、デヴォンシャー公爵との結婚を告げられる。まだ17才だったジョージアナは、驚きつつも結婚を受け入れる。

ジョージアナとデヴォンシャー公爵を乗せた馬車は、ロンドン・デヴォンシャー邸に到着する。デヴォンシャー公爵に付き従い、ジョージアナは屋敷の中へと足を踏み入れる。

夜になり、ジョージアナがメイド達にドレスを脱がせてもらっていると、デヴォンシャー公爵が部屋に入って来た。デヴォンシャー公爵はメイド達を下がらせ、ジョージアナの服を脱がし、ジョージアナは緊張しながらベッドへと入った。

後日、ジョージアナはレディ・スペンサーに、デヴォンシャー公爵はベッドの中で会話はなく、自分に無関心だと愚痴をこぼす。しかしレディ・スペンサーは男の子を産めば面倒な夜の営みはしなくて済むのだからそれまでの辛抱だと諭す。

ある日、デヴォンシャー公爵が支持している政治家約20名と共に、ジョージアナは夕食を食べていた。ジョージアナがその中の1人フォックスと政策について議論していると、デヴォンシャー公爵は席を立っていってしまう。

ジョージアナは慌ててデヴォンシャー公爵の後を追い、部屋に一緒に行くと言うも、デヴォンシャー公爵に拒否される。ジョージアナはデヴォンシャー公爵の冷たい態度に傷つきながらも平静を装い会食へと戻る。

そして会食後、ジョージアナはデヴォンシャー公爵の部屋から、裸の女性が慌てて出てくるのを見てしまう。驚いたジョージアナは、部屋へ入りデヴォンシャー公爵に理由を聞くが、細かい所は目をつぶるようにと言われる。

またある日、ジョージアナがデヴォンシャー公爵と食事をしているところに、メイドに連れられて女の子がやってくる。デヴォンシャー公爵は母親が死んで行くところがないので引き取る事にしたと言い、ジョージアナはその女の子シャーロットがデヴォンシャー公爵の子だと気付く。

ジョージアナはデヴォンシャー公爵に問い掛けるが、デヴォンシャー公爵は、部屋ならいくらでもあると言い、食事の味が変だなどと話しをすり替え、はぐらかす。さらに、子供を育てる練習だと言われ、ジョージアナは悲しみながらも、育てることを決意し、シャーロットに優しく微笑む。

ある晩、貴族達が集まりルーレットなどで遊んでいると、ジョージアナに突然陣痛が始まる。そしてデヴォンシャー公爵は男の子の誕生に乾杯する。しかしレディ・スペンサーが心配してデヴォンシャー邸にやってきたとき、デヴォンシャー公爵は女の子が産まれた事に苛立っていた。

そして6年がたち、ジョージアナには女の子がもうひとり生まれていた。馬車に揺られながらシャーロット、ハリヨー、リトルGの3人の子供たちをみつめていた。

ジョージアナは社交界を訪れ、そこで楽しく踊っているとき、女性と話すデヴォンシャー公爵を見かける。デヴォンシャー公爵は立ち去るが、ジョージアナは、その女性に話しかける。話をするうち、エリザベス・フォスターと名乗ったその女性にジョージアナは興味を持ち、また会う約束をする。

ジョージアナが子供達と遊んでいると、エリザベスに声を掛けられる。エリザベスは男の子が3人いると話すエリザベスを羨ましく思いながら、エリザベスに男の子を2回流産した事を話す。すると実はエリザベスは夫から棒で殴られるなどの暴力を振るわれていて、今は仮の住まいに居るため、子供達にも会わせてもらえていないと言う。そこでジョージアナはデヴォンシャー公爵に頼んで、一緒に暮らし始める。

すっかりエリザベスと仲良くなったジョージアナはある日二人で演劇を楽しんでいる時、昔からの友人チャールズ・グレイを見かけ、演劇の後で再会する。ジョージアナがいない間に、グレイはエリザベスからからデヴォンシャー公爵がジョージアナの事を愛していないと聞く。一方ジョージアナはエリザベスから、グレイがジョージアナに惹かれていると言われ、ジョージアナも意識するようになる。

ある日パーティーで、ジョージアナはグレイと会い、6週間後の選挙の話を聞き、協力すことに。グレイの力強い演説に魅了されたジョージアナはグレイに、まだ自分の事を想っているかと聞く。グレイは、ずっと前から崇拝していると答える。

ジョージアナが家に戻ると、使用人がエリザベスの部屋の前で聞き耳を立てていた。その様子からエリザベスとデヴォンシャー公爵の浮気に気付く。ジョージアナは友達を奪ったデヴォンシャー公爵の行為に激怒し、エリザベスを追い出すよう言うが、デヴォンシャー公爵はそれを断る。そして部屋の外ではその話をエリザベスが聞いていた。

ジョージアナはレディ・スペンサーに相談しに行くが、男の子を産んで彼を振り向かせるしかないと言われる。ジョージアナがデヴォンシャー邸に戻ると、エリザベスが息子達に会う為には公爵にすがるしかなかったと話す。ジョージアナは部屋から追い出すが、窓の外を見ると、エリザベスは嬉しそうに子供たちと再会を果たしていた様子を見て複雑な心境になる。

さらに、デヴォンシャー公爵とエリザベスの息子達、エリザベスの楽しそうな姿を見ているしかなかったジョージアナは、屋敷を抜け出しグレイに会いに行く。そして苦しい胸の内を話したジョージアナとグレイはキスをする。

ジョージアナとデヴォンシャー公爵、エリザベスが朝食を食べているとき、ジョージアナはグレイとのことを認めれば2人の関係も認めると話す。デヴォンシャー公爵は怒りだし、逃げるジョージアナを追いかけ義務を果たせと言い、無理やり犯す。その後、ジョージアナは男の子を出産するが、夫婦関係は冷え切っていた。

ジョージアナとグレイが密かに愛し合っていることを知っていたエリザベスが、デヴォンシャー公爵が不在のときに、グレイを呼び、深夜にジョージアナはグレイの部屋を訪れる。その後、ジョージアナはデヴォンシャー公爵にフランスのバースへ湯治に行く許可をもらい、バースでグレイと幸せなひと時を過ごす。

ところがジョージアナが屋敷に戻るとレディ・スペンサーがデヴォンシャー公爵と待っていて、グレイと別れるように言い部屋を出る。ジョージアナはデヴォンシャー公爵に詰め寄るが、デヴォンシャー公爵は自分なりにジョージアナを愛していると話す。

そして、グレイと別れないなら首相になりたいというグレイの夢はなくなり、ジョージアナも子供達と会えないと話す。泣きながら部屋を出たジョージアナだったが、落ち着きを取り戻すとデヴォンシャー公爵にロンドンへ戻ってほしいと伝える。

デヴォンシャー公爵は娘達からの手紙を差し出すが、ジョージアナは受け取らず、デヴォンシャー公爵とレディ・スペンサーは部屋を出て行く。1人残ったジョージアナは、デヴォンシャー公爵が置いていった娘達の手紙を読み、デヴォンシャー邸へと戻る。ジョージアナは子供達を抱きしめ、デヴォンシャー公爵も戻って来たジョージアナを受け入れる。

ジョージアナがデヴォンシャー邸でデヴォンシャー公爵、エリザベスと夕食を食べていると、グレイの叫び声が聞こえてきた。ジョージアナがグレイの元へ行くと、グレイはここから出て結婚しようと伝える。しかし、ジョージアナは子供達を捨てることはできない、とグレイの申し出を断るが、食事の席に戻るとデヴォンシャー公爵に、グレイの子供を妊娠している事を話す。

デヴォンシャー公爵はジョージアナに、田舎で子供を産み、グレイ家に預けるよう命令する。その冷たい仕打ちにエリザベスも、ジョージアナに同情し、ジョージアナに付いて田舎に行く事を決める。田舎で赤ちゃんを出産したジョージアナは、グレイの父親に赤ちゃんを引き渡す。

ジョージアナがデヴォンシャー邸に戻ると、デヴォンシャー公爵が、平穏な夫婦生活を送りたいと話す。デヴォンシャー公爵の言葉を聞いて、ジョージアナはパーティーに二人で出席することを受け入れる。

パーティーに行くと、そこにはグレイも来ていて、泣くのを耐えながら笑顔でグレイが婚約したことやジョージアナの産んだ子イライザの話を聞く。

そののち・・・ジョージアナは公爵夫人であり続け、一方グレイは首相となったのだった。エリザベスはジョージアナの死後、ジョージアナの遺言により公爵と再婚。ジョージアナはお忍びで何度もイライザを訪ね、イライザが娘を産むとジョージアナと名付ける。

アカデミー賞、衣装デザイン賞を受賞している映画

「ある公爵夫人の生涯」は、製作総指揮でもあるアマンダ・フォアマンによるデヴォンシャー公爵夫人ジョージアナ・キャヴェンディッシュの伝記を映画化した作品です。 原題はThe Duchess、監督はイギリスのソウル・ディブ監督です。2008年にイギリスで制作、公開され、日本では翌2009年の公開です。第81回アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞、美術賞にもノミネートされています。

ジョージアナことジョージアナ・キャヴェンディッシュ(デヴォンシャー公爵夫人)は、イギリスの貴族の女性で、実在の人物です。故ダイアナ妃の祖先にあたるそうです。デヴォンシャー公爵夫人は、18世紀後半のロンドン社交界でも評判の美人で、大規模なサロンを形成、また当時としては珍しく政治活動にも熱心な女性でした。一方ギャンブル好きでもあり、スキャンダラスな私生活でもあったようです。

ジョージアナの死後、デヴォンシャー公爵夫人となったエリザベス・キャヴェンディッシュも実在の人物です。バースでデヴォンシャー公爵夫妻と出会い、ジョージアナの親密な友人となる一方、デヴォンシャー公爵との間に娘のキャロラインと息子のオーガスタスを産んでいます。また彼女は複数の男性たちと関係を持っていたと言われているそうです。

ジョージアナ(デヴォンシャー公爵夫人)を演じるのはイギリス人女優のキーラ・ナイトレイです。ハリウッド映画「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」のヒロインエリザベス・スワン役で、一気にハリウッド・トップスターの仲間入りしています。その時キーラ・ナイトレイは17歳です。その後「プライドと偏見」の主役エリザベス役で、史上3番目(20歳と311日)の若さでアカデミー主演女優賞にノミネート、また2014年には「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」でもアカデミー助演女優賞にノミネートしています。

デヴォンシャー公爵を演じるのはレイフ・ファインズは、ブロードウェイの舞台「ハムレット」で、トニー賞を受賞しているイギリス人俳優です。「シンドラーのリスト」でアカデミー助演男優賞にノミネート、「イングリッシュ・ペイシェント」でもアカデミー主演男優賞にノミネートされています。また「ハリー・ポッターシリーズ」の最も恐ろしい闇の魔法使い、ヴォルデモートも有名です。

エリザベスを演じるイギリス人女優ヘイリー・アトウェルは、この映画で英国インディペンデント映画賞助演女優賞、ロンドン映画批評家協会賞助演女優賞にノミネートされています。またマーベルのアメコミ映画「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」では、ヒロインのペギー・カーターを演じています。

ジョージアナの不倫相手チャールズ・グレイ役はイギリス人俳優のドミニク・クーパーです。ミュージカル映画「マンマ・ミーア!」「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」にも出演しています。ちなみに紅茶のアールグレイは、1830年から1834年までイギリスの首相を務めたチャールズ・グレイの名からついているそうです。

ジョージアナの母レディ・スペンサー役は、イギリスの歌手で女優のシャーロット・ランプリングです。イタリア映画「愛の嵐」での上半身裸にサスペンダーでナチ帽をかぶって踊るシーンが有名です。2015年の映画「さざなみ」でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞、アカデミー主演女優賞にもノミネートされています。

お昼のメロドラマ的映画

この映画は、確かに衣装やヘアアレンジ、貴族の暮らしやお城など中世ヨーロッパの世界観を楽しめる作品ですが、ストーリーとしては、ザ・昼ドラです。自分の親友と不倫する夫、居座る相手、自分も別の男性と恋に落ち、その間に子供も生まれ・・・と、女性目線で描かれたドロドロの不倫話です。3人の食事シーンなんて、何が起きるのだろうとドキドキワクワクしました。

ただし、時代背景を念頭に置いて観ると、社会的な歴史ドラマでもあるのかなと思います。貴族の女性の結婚とは跡継ぎを生むことだけが目的の今よりもずっと女性軽視の時代です。デヴォンシャー公爵には愛人がいて、一緒に暮らしつつも、ジョージアナには不倫を許さない、というなんとも自分勝手な話ですが、ジョージアナの母親の様子を見る限り、当時の貴族社会ではそんなことは女性が我慢するのが当たり前だったようです。

そんな時代でも、彼女なりに自己主張をし不倫とはいえ、女性としての幸せを追い求めるジョージアナに共感する女性も多いと思います。デヴォンシャー公爵やエリザベスにはかなりイライラすることもありますが、デヴォンシャー公爵目線、エリザベス目線で観るとまた違う興味深いストーリーになるのかもしれません。でもそれはこの映画では無意味かなと思います。

最後にはそれぞれのそれなりの幸せのかたちが説明されていたので、見終わったあとは、スッキリできて一安心、といった感じでした。

それにしても、故ダイアナ妃を思い出さずにいられない、なんとも数奇な物語です。