旅客機墜落事故の生存者たちがいかに生と死に立ち向かったかが描かれた、極限のサバイバルストーリーです。実際に起こった飛行機事故での話で、目をそむけたくなるようなシーンも多少はありますが、直接的な描写は少なめなので怖がらず観て欲しいと思います。
「生きてこそ」のあらすじ
1972年、チリでの遠征試合に向かう大学ラグビーチームとその応援のために同行する家族や知人、乗務員を乗せた一機の小型飛行機が、アンデス山脈上空を飛んでいた。
機内では若者たちが陽気にはしゃいでいたが、悪天候で徐々に機体が雲に包まれ、激しく揺れ始めた。操縦士は立て直そうとするが、アンデス山脈の切り立った山壁に翼をぶつけ、猛スピードで墜落していく。
墜落しながら機体は後部を失い、後部座席にいた者など数名が空中に放り投げだされた。機体は真っ二つになり、前部が雪の中に突っ込み止まった。突っ込んだ衝撃で座席は操縦席に向かって重なり、衝撃で即死する者、挟まれて身動きできない者がいた。
意識を取り戻したチームのキャプテン、アントニオは、無事だった医学生のカネッサやカリトスらと協力して救助活動、応急手当を始める。そして操縦席に向かい、瀕死の操縦士に無線機を使って救助を要請するよう指示するが、無線機は壊れていた。
同乗していた機関士によると、無線機の電池は吹き飛ばされた後部に置いてあったとのこと。また、短時間のフライトを想定したため、小型機には満足な物資もなかった。
雪に覆われたアンデスの夜の寒さは厳しく、生き残った者たちは、座席シートのカバーを外して毛布代わりにし、機体の開いた部分をトランクで塞いで寒さをしのいだ。わずかなワインやチョコを分け合い、雪を飲み水に変え過ごしていた。
そんななか、頭を強く打ち、意識のなかったナンドが、なんとか息を吹き返したが、一緒に乗っていた母親は墜落時に死亡、妹のスザンナも怪我を負っていた。
翌日、上空を飛んでいた飛行機が、翼を振って去って行った。それを発見の合図だと信じたカネッサ達は大喜びし、アントニオの許可なく残りのワインやチョコを食べてしまう。アントニオと連れのロイは寝ていて気づかず、ハビエルとリリアナ夫婦も躊躇し、仲間には入らなかった。
ナンドは妹を看病しながら、もし彼女が息を引き取ったら、墜落の責任がある死んだパイロットの肉を食べてでも下山してやると仲間に話した。夜が明け、待ち続けても救助隊は一向に来なかった。アントニオは食料が無くなっていることに激怒し、落ち込んだカネッサたちは足を怪我したフェデリコたちが楽になるように、とハンモックを作った。
その後、荷物の中からラジオが見つかり、アントニオはそのラジオで、捜索は失敗したというニュースを聞いてしまう。カネッサたちは無線機のバッテリーがある機体の尾翼部分を探すために雪の中を歩き出すが、雪に覆われた山にはクレパスがあり、危険だったため断念した。
墜落から9日がたち、ナンドの妹スザンナは死んでしまった。そしてラジオからは捜索中止のニュースが流れ、アントニオは絶望した。
弱気になったアントニオの代わりに、ナンドがみんなに捜索中止のニュースを伝え、自分達の力で脱出することが決まったのだから、これは良いニュースだと言った。しかし、脱出するにはチリまでの途方もない道のりを歩かなければならず、そのための体力が必要だった。
ナンドは、死者の肉を食べるしかないと言うが、人の肉を食べるという決断は簡単にできる事ではなく、カネッサはナンドに賛同したものの、みんなで一晩話し合うことにした。
それぞれの宗教観、道徳観からなかなか答えを見つけることができなかったが、翌日、決心したカネッサが遺体の一部を切り取り口にする。それを見て一人、また一人と後に続くが、リリアナはどうしても口にすることができなかった。
肉を食べた3人は再び後部の捜索に出かけ、後部座席にいた者の遺体を発見し、遺品や食料を持ち帰った。ソリで勢いよく戻ってきた彼らの明るさは他のもの達に希望を与え、チームメイト達を許せずにいたアントニオと和解。リリアナも生きて子供の元に帰るために、と肉を食べる決意をした。
ところがその夜、大きな雪崩が起こり、みんなで過ごしていた機体が完全に雪に埋まってしまった。何名かは雪から這い出し、他のものを助けようとしたが、アントニオ、リリアナなど8名が死んでしまう。さらに機内から雪をどけるの作業は何日もかかり、その間に脚を怪我していたアルベルトが死んでしまう。
墜落から50日が過ぎ、ナンドはカネッサ、ティンティンと、再び尾翼部分の捜索に出発した。そして彼らはついに残りの機体を見つけ、衣類や食べ物、マンガも発見した。しかし肝心のバッテリーは重すぎて、持ち帰る事が出来なかった。
そこで、嫌がるロイを基地から連れ出し修理させようとするが、結局修理することはできず、四人は仲間の待つ機体へ帰った。機体の中では脚の怪我をしていたフェデリコが息を引き取っていた。
60日が過ぎ、春の訪れを感じはじめた頃、ナンドは、地図を頼りに西へ向かい、チリを目指す覚悟を決め、カネッサとティンティンを誘い、天気の良い日に出発した。3人は危険な目に合いながらも、どうにか山頂には到達したが、そこから見えたのは一面の山々だった。
カネッサはみんなの元に戻る事しか考えられず、ナンドに苛立ちをぶつける。しかしナンドには、雪に覆われていない一つの山が見えていた。ナンドはカネッサを励まし、ティンティンを仲間の元へ帰らせると、彼の分の食料をもらって二人で再び歩きだす。
その後、機内に残っていた生存者達に、ヘリコプターのプロペラ音が聞こえてきた。急いで外へ出てみると、救助ヘリが向かってきていて、ヘリの中には笑顔のナンドとカネッサが乗っていた。
こうして16名は救助隊に助けられ無事生還することができたのだった。
実際にあった飛行機墜落、遭難事故が題材となっている映画
映画「生きてこそ」は、実際にあった1972年のウルグアイ空軍機571便遭難事故を題材にしたアメリカの映画です。ピアズ・ポール・リードの小説「生存者/アンデス山中の70日」が原作で、事故の生存者のひとりであるナンド・パラド氏がテクニカル・アドヴァイザーとして参加しています。
主役ということでもないですが、ナンド・パラード役で「今を生きる」や「ガタカ」などたくさんの映画に出演しているアメリカの俳優イーサン・ホークが出演しています。イーサン・ホークは2001年には「チェルシーホテル」で映画監督デビュー、さらに「トレーニング デイ」ではアカデミー助演男優賞にノミネートされています。2014年にも「6才のボクが、大人になるまで。」で2度目のアカデミー助演男優賞にノミネートされています。
他、ロベルト・カネッサ役でジョシュ・ハミルトン、アントニオ・バルビ役でヴィンセント・スパーノ、リリアナ・メトル夫人役でイリーナ・ダグラスなどが出演しています。
監督は、アメリカの映画プロデューサー、映画監督のフランク・マーシャルです。2018年に夫妻で同時にアカデミー賞の賞の一つ、アービング・G・タルバーグ賞が授与されています。
ちなみに、アービング・G・タルバーグ賞(Irving G. Thalberg Memorial Award)は、アメリカにおける映画製作システムを確立しながら、1936年に若くして亡くなったプロデューサー、アーヴィング・タルバーグの業績を記念して、第10回(1937年)から授与が始まった特別賞です。
映画業界に際立った業績を挙げたプロデューサーを対象に受賞者が選考されていましたが、後年になるにつれ、アルフレッド・ヒッチコックやスティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカスなど、娯楽性・興行に優れた作品を数多く残しながらも、アカデミー賞とは縁遠かった映画監督に残念賞的な意味合いで贈られるようになってきています。
簡単には感想を言えないテーマが含まれた物語
実際にあった飛行機墜落遭難事故を元に、生存者たちがいかにして奇跡の生還を果たしたかが描かれた物語です。単なるサバイバル映画やパニック映画ではなく、生きるため生存者が死者の肉を食べ生き延びたというショッキングで深く考えさせられる重い内容の物語です。
とはいえ、生存者たちの生き延びるための選択を、ただ映画を観ただけの私がどうこう言えない、というのが感想です。実際にその場にいたら、なんてことも軽々しく言えません。人それぞれの宗教観や倫理感もあるけれど、それもタイトル通り「生きてこそ」なのかなと思います。
それも踏まえたうえで、過酷な現実の前に彼らがどのようにしてサバイバルしたかが描かれたストーリーで、絶望的な状況でもあきらめずに立ち向かった生存者たちから学べることのある映画だと思います。ドキュメンタリーがリメイクされた映画ということなので、ドキュメンタリーの方も観てみたいです。