答えにたどり着けない現実、正解のない選択肢。社会派ストーリーが好きな方におすすめです。
アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場のあらすじ
ケニア・ナイロビで、自転車修理を行なう父親に、フラフープを作ってもらった幼い娘アリアが、庭で遊んでいた。母親は売り物のパンを焼いている。
イギリス・ロンドンでは、イギリス軍のキャサリン・パウエル大佐が、国防副参謀長のフランク・ベンソン中将のもと、アメリカ軍のドローン、MQ-9リーパー偵察攻撃機を使い、イギリス、アメリカ、ケニアと合同で過激さを増すイスラム武装勢力〝アル・シャバブ〟のテロリスト捕獲作戦を指揮していた。
合同チームは、入ってきた情報をもとに現地の偵察用小型ドローンで調査し、ケニアの首都ナイロビのアジトに潜んでいるアル・シャバブのテロリストたちを確認した。
アジトの中でテロリストたちは、犯行予告の演説をカメラで撮影していて、そこには爆弾が装着されたベストも用意されていた。
今まさにテロを決行しようとしていることがわかり、合同チームはテロの被害を未然に防ぐために、テロリストの捕獲を諦め、攻撃することを決定する。
アメリカ、ネバダ州の米軍基地では、ドローン・オペレーターのスティーブ・ワッツが、パウエル大佐からの指令を受け、ミサイルの発射準備に入る。そのとき、現地のミサイルの目標地点のそばの路上で、アリアがパンを売る準備を始める。
このまま攻撃をすれば、巻き添え被害の可能性があるため、内閣府ブリーフィングルームでは、軍人や政治家たちの間でこの攻撃の是非の議論が沸き起こる。
やっとテロリストを追い詰めたパウエル大佐は、少女を犠牲にしてでもミサイル攻撃をすることを主張する。しかし政務次官・閣外大臣は民間人の犠牲は避けるべきで攻撃は認められない、と意見が割れる。
そこで司令部は、アリアを救うために、攻撃前に彼女の売るパンをすべて買い上げ、その場から離れさせようと現地の工作員に命令を出す。
しかし現地の工作員ジャマは近くにいた軍隊に目を付けられ、その場から逃げなければならなくなった。パンの買上げは失敗に終わり、何も知らないアリアはその場でパンの販売を続ける。
パウエル大佐は「この周辺地帯の損害(CDE)が50%以下ならよいか」と内閣府に確認し、ベンソン中将が頷了承する。そのときアリアがいた位置に及ぼす影響は、65~75%だった。
パウエル大佐は、被害予測を出しているサッド軍曹に偽って確率を報告させ、ワッツ中尉のもとに攻撃命令が下り、ミサイルが発射される。
着弾までのわずかな時間にジャマ工作員は、現地の少年にアリアのパンを買い占めさせ、アリアは片付けを始めるが、ミサイルが落ち、家が一瞬にして爆発炎上した。
爆発で舞い上がった砂ホコリがおさまると、複数箇所から出血しているもののもぞもぞと動くアリアを見て、まだ生きていると一同は確認する。
そしてテロリストの遺体を確認すると、最重要指名手配リスト4位のダンフォードががれきの下から出てきたため、パウエル大佐が再度ミサイル発射の命令を下す。
一度目の爆発時、アリアの両親はアリアより遠い場所にいたため無傷だった。2人はアリアの元へ急いで駆け寄ったが、そのとき2回目の衝撃が襲う。アリアは駆け付けたケニア軍のジープで病院に運ばれる。
ワッツ中尉は、再び遺体を確認するが、頭部のみになった遺体の耳部分が、ダンフォードのものと一致せず誰も言葉を発しなかった。
そのときパウエル大佐が「任務完了」と告げた。パウエル大佐はサッド軍曹に、報告書には損害予測は最大45%だったと書くように指示し、沈鬱な顔で帰宅する。
内閣府では、作戦終了後、アンジェラ政務次官がフランク中将に「恥ずべき作戦だった。あなたは安全な場所で判断を下したのだ」と声を荒げたが、これに対しベンソン中将は、自分が5つの自爆テロ作戦で遺体を片付けた経験があることを語り「戦争の代償を知らないなど軍人に言うな」と答えた。
病院に運ばれたアリアは助からなかった・・・。
俳優コリン・ファースの初プロデュース作品
「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(原題: Eye in the Sky)は、2015年製作のイギリス映画です。ドローンをはじめ最新のテクノロジーでで行われる現代の戦争の実態を描き、正義とモラルを問う軍事サスペンス映画です。米批評サイト「Rotten Tomatoes」で高評価を得ている作品です。
監督は南アフリカ共和国ヨハネスブルグ出身の映画監督、脚本家、俳優のギャヴィン・フッドです。ギャヴィン・フッド監督はヨハネスブルグの旧黒人居住区ソウェトを舞台にした作品「ツォツィ」でアカデミー賞の外国語映画賞受賞しています。他に「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」「エンダーのゲーム」などの作品があります。
また、プロデューサーとして「英国王のスピーチ」でアカデミー主演男優賞を受賞しているイギリスの俳優、コリン・ファースが参加しています。
正義感に燃える指揮官キャサリン・パウエル大佐役は、2006年の「クィーン」でアカデミー主演女優賞を受賞しているヘレン・ミレンです。「黄金のアデーレ 名画の帰還」で実在のユダヤ系女性マリア・アルトマン役も演じています。その他たくさんの作品に出演し、エミー賞を4度、2015にはトニー賞を受賞し、演劇の三冠王を達成しています。
ヘレン・ミレンは「クイーン」で演じたエリザベス2世本人から、バッキンガム宮殿での夕食会に招待されたが、撮影のためスケジュールが合わない、と辞退したというエピソードがあるそうです。
国防副参謀長、フランク・ベンソン中将を演じたのは、イギリスの俳優アラン・リックマンです。映画「ダイ・ハード」でテロリスト集団のリーダー、ハンス・グルーバー役で強烈なインパクトを残し、映画デビュー作にして世界的な知名度を得たのち、「ロビン・フッド」や「ラスプーチン」「ハリー・ポッター」シリーズなど、たくさんの作品に出演し数々賞を受賞しています。アラン・リックマンは2016年1月14日に膵臓癌で亡くなり、「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」と共に本作が遺作となっています。
ドローン操縦士、スティーヴ・ワッツ中尉を演じたのは、TVドラマ「ブレイキング・バッド」のジェシー・ピンクマン役で知られるアメリカの俳優、アーロン・ポールです。
現地工作員、ジャマ・ファラを演じたのは、ソマリア系アメリカ人の俳優バーカッド・アブディです。バーカッド・アブディは、2013年公開の映画「キャプテン・フィリップス」で貨物船をハイジャックする海賊のリーダーアブディワリ・ムセを演じ、映画俳優組合賞やゴールデングローブ賞、アカデミー賞にノミネートされた実力派俳優です。
余談ですが、映画の紹介サイトなどではサスペンスとなっていましたが、私はサスペンスというより人間ドラマかな~と思ったのでジャンルはドラマになっています。
現代ドローン戦争のリアルが描かれた映画
この映画は、民間人を危険にさらしてもテロリストの潜伏先にミサイルを撃ち込むべきか、とどまるべきかの選択を迫られるという映画です。なんかこんな話最近聞いたような、と思ったら「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」というトロッコ問題に通ずるストーリーでした。
さらにテロリズムも関わってくるとても複雑な問題で、映画の中でも上層部が責任の押し付け合いのような場面もありましたが、誰にも正解を出せないのでは、と思いました。ヘレン・ミレンが演じたキャサリン・パウエル大佐が自分の答えを出したのは、すべてを受け入れる覚悟の上でしか出せない決断だったと思います。
もしも攻撃せずにテロが実行されたことで奪われる最低80人の命と、テロとは無関係の一人の少女の命は、本来なら決して比べられることのないどちらも大切な命です。私なら、攻撃せずにどうにかテロを起こさせないようにする・・・と言いたいところですが、ここでこれが「ドローン戦争」だというところが関わってきます。
遠く離れた場所からドローンの遠隔操作によってテロリスト捕獲作戦を実行しているため、現地には工作員が一人しかいないわけです。もっといたのかもしれませんが、それでも少人数でできることなんて限られるので、テロを止めることは難しい、ということが問題なのだと思います。
そんなところから、サブタイトルが「世界一安全な戦場」となっているのだと思いますが、このサブタイトルがなんだかピンとこず。せっかく緊迫感のある映画なのに、ほのぼのしたストーリーなのか?と錯覚してしまいました。イギリス人が優柔不断に見えたり、アメリカ人が好戦的に描かれていたり、とユーモアのセンスもちりばめられているのでこれはこれでいいのかもしれませんが。
ちなみに、この作品は、俳優のコリン・ファースがソニー・ミュージックUKの元会長兼CEOのジェド・ドハーティとともにプロデューサーを務めた作品です。この2人のコンビは、2017年3月に公開の「ラビング 愛という名前のふたり」でもゴールデングローブ賞で2部門ノミネートとされているそうです。そちらの映画も気になります。
また、映画の中で登場する鳥型のドローンは、米カリフォルニア州にあるエアロバイロメント社によって製作された“ナノ・ハミングバード”というハチドリ型偵察ロボットがモチーフになっているそうです。ナノ・ハミングバードは、アメリカ国防総省が偵察を目的とするプロトタイプを開発するプロジェクトに向けて開発されたドローンで、映画製作陣がエアロバイロメント社を見学して研究を重ね、徹底して作り込まれたものなのでリアリティがあるそうですよ。劇中では他にも虫型のドローンなども登場するので、ドローンの最新技術などに興味がある人も楽しめる映画だと思います。