ボーダーラインのあらすじ

メキシコとの国境アリゾナ州のチャンドラーで誘拐事件の容疑者の家にFBIの突入捜査が行われる。FBIの女性捜査官ケイト・メイサーと仲間は容疑者の一人を射殺し、家屋の壁の中から無数の誘拐被害者たちの残虐な死体を発見する。そのとき、裏庭の物置に仕掛けられた爆弾が爆発し、捜査官二人が殉職する。

ケイトはこの家の名義人マヌエル・ディアスがカルテルの幹部で、マヌエルにはそのカルテルのアメリカのボスであるギレルモという兄がおり、さらにいとこのファウスト・アラルコンも幹部だと聞かされる。ケイトは誘拐事件の首謀者を逮捕できるという言葉に乗り、国防総省のマット・グレイヴァー率いる特殊捜査チームに加わり、メキシコ麻薬カルテルの全滅を目的とした捜査に参加する。

ケイトとマット、マットの仲間コロンビア人アレハンドロは、メキシコとの国境の都市エル・パソのフォートブリス陸軍基地に到着。そこで、メキシコのフアレス市の裁判所に行き、マヌエルの弟ギレルモの身柄を引き取り、基地に安全に移送するという作戦の説明を受ける。マットからテキサスのエル・パソに行くと聞かされていケイトは、話が違うことを不信に思いマットを問い詰めますが、言いくるめられる。

そしてケイトたちは国境を越え、メキシコのフアレス市に向かう。フアレスは治安が悪く、走行中も銃声が聞こえてきたり、首や腕が切断された死体が街中に吊るされていた。さらにアレハンドロにメキシコの警官はカルテルに買収されている者が多いため、信用しないようにと忠告される。

マヌエルの弟ギレルモを地元警察から引き取り、メキシコ側の検問を抜け、アメリカ側の検問につながる橋の上で高速道路で、アレハンドロが自分たちがカルテルの手下たちに取り囲まれていることに気付く。これを察知した部隊も車外に飛び出し、カルテルの構成員達に銃口を向け銃を捨てるように警告。それを無視した男たちをアレハンドロは射殺する。事態を車内で見て困惑するケイトは、地元の汚職警官の1人が自身に銃口を向けている事に気付き、とっさに銃撃をかわし相手を射殺する。

襲撃者を一掃した部隊は無事にアメリカ国境を渡るのだが、基地に戻ったケイトは作戦の違法行為についてマットに抗議する。しかし、マットはカルテルを混乱させることが作戦の目的だと言う。そしてアレハンドロは、水が入ったタンクで拷問をし、ギレルモからマヌエルの居所を聞き出す。

アリゾナ州に戻ったマット、アレハンドロは、FBI捜査官であるケイトの権限を利用し、国境警備隊が拘束したメキシコからの不法入国者たちの中から刺青があるか、などのチェックをしスカウトをしていく。その理由がわからないケイトは、作戦の全容を教えてもらわないとチームから抜けると、マットに詰め寄る。

すると、マットは不法入国者が避ける場所にトンネルがあり、場所を特定して混乱を引き起こせば、メキシコにいるファウストが、マヌエルをメキシコに呼び戻し、ファウストの所在が明らかになるという。ファウストの指示によって、メキシコでは毎日たくさんの市民が誘拐されて殺害されている。もしファウストを探し出すことができたら大勢の命が救えるとアレハンドロも話す。

翌日、ケイトとFBIのレジーが作戦本部に向かうと、そこには昨夜スカウトされたメキシコ人が数名おり、トンネルの場所を特定していた。アレハンドロとマットは、FBIのケイトの権限でSWATを呼ぶように指示する。

その後、マヌエルの資金洗浄を行う女を銀行で逮捕、ゴムバンドに束ねられた大量の紙幣を押収し、口座を全て凍結させます。アメリカ国内の麻薬取引で得た金を、メキシコに送金していたのだ。ケイトは虹色のゴムバンドで現金が束ねられているのを確認し、マットが止めるのを無視して銀行に入っていきます。その際、ケイトの顔が銀行の防犯カメラに映ってしまう。

ケイトは銀行の支店長から、毎日現金で9000ドルが預けられていることを知らされる。そして1700万ドルを差し押さえて、マヌエルの口座の送金記録を調達し、これでマヌエルを逮捕できると意気込む。しかしマットはマヌエルがメキシコに戻るまで逮捕できない、と一蹴するのだった。納得のいかないケイトはFBIの上司に、合法的な手続きを踏んでマヌエルを逮捕したいと訴える。ところが、上司はそれでは麻薬戦争を解決できないので、混乱を起こして敵の様子をうかがうのが最善策だ、合法・非合法のラインは変わるものだと告げられる。

ケイトは納得できないままレジーとバーへお酒を飲みに行く。そんなケイトの様子を、アレハンドロが監視していた。レジーに仕事を忘れるように言われ、レジーの友人で地元警察官のテッドを紹介される。話上手なテッドと意気投合したケイトは自分のアパートに招く。しかし、テッドが銀行で押収したお札を束ねていたゴムバンドと同じものを取り出して、彼が汚職警官であることに気付く。勘付かれたことに気付いたテッドは、拳銃を取ろうとしたケイトを押さえつけて首を絞める。

するとそこへアレハンドロが現れ、テッドの頭に銃を突き付け、他の汚職警官の情報を聞き出す。ケイトは自分が汚職警官を逮捕するための囮にされたことに気づき、マットに問い詰める。しかしマットは、銀行に入るな、という自分の警告をケイトが無視した、ケイトとを非難し、マヌエルを捕えるいい展開になったと告げる。そしてアレハンドロ、マットはテッドを痛めつけ、買収されている他の汚職警官の情報を自供させる。

マットのチームは衛星写真から密輸トンネルを割り出す。そしてマヌエルがメキシコに呼ばれたため、トンネルを襲撃し、マヌエルに更なる動揺を与える作戦を計画する。ケイトとレジーにも、トンネルの襲撃に同行するように命じ、マットは自分がCIA所属で、国内活動を単独で行えないことを明かす。ケイトたちFBIは戦力として期待されていたのではなく、チームについて回ることが任務だった。それを知ったレジーは怒りをあらわにするが、ケイトはこの捜査のすべてを見届けるため作戦に参加する。

そしていよいよマヌエルの追跡が開始される。カルテルの運び屋をしているマヌエルの手下でメキシコ州警察のシルヴィオは、パトカーに麻薬を積み込みトンネルに入っていく。マットの部隊、ケイト、アレハンドロらも、トンネルの奥へと進行する。そのとき、グループからひとりで離れトンネルをいくアレハンドロの姿を見たケイトは、彼の後を追う。トンネルを抜けメキシコ側の出口から外へ出た先は、倉庫になっていてそこではメキシコ州警察のシルヴィオがカルテルのメンバーと麻薬の積み下ろしをしている最中だった。

アレハンドロは、突然メンバーを射殺してシルヴィオを拘束。彼の後を追って来たケイトはアレハンドロに銃を向けて静止を命じる。しかし、アレハンドロは彼女の防弾ベストを撃ち、「二度と俺に銃を向けるな」と警告しシルヴィオにパトカーを運転させて、倉庫を去って行く。アレハンドロは軍のオペレーターと通信し、マヌエルの現在地を確認する。

一方、負傷したケイトはマットたちのところに引き返すと、そこでは作戦の成功を祝っているところだった。激怒するケイトに、マットはアレハンドロの正体を明かす。実はアレハンドロはメキシコ麻薬カルテルに妻と娘を惨殺された過去を持つメキシコ政府の元検事で、復讐のためにコロンビア麻薬カルテルの傭兵として今回の作戦に参加しているという。そしてCIAの目的は乱れた秩序を立て直すために彼を利用し、コロンビア麻薬カルテル一党支配を確立することだった。

シルヴィオにパトロールカーを運転させマヌエルを拘束したアレハンドロはシルヴィオを射殺し、マヌエルにファウストの自宅まで運転を命じる。ファウストの屋敷にたどり着いたアレハンドロは、武装した門番とディアスを殺害し、妻と二人の息子と食事をしている麻薬王ファウストと対面するのだった。

続編にも出演するベニチオ・デル・トロの演技が秀逸

この映画はカナダのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品で2015年にアメリカで公開され、日本では2016年に公開されました。アメリカとメキシコの国境地帯でおこっているルール無用の麻薬戦争の現実をリアルに描き、アカデミー賞3部門にもノミネートされています。

主演は「プラダを着た悪魔」でブレイクしたイギリス人女優のエミリー・ブラントです。トム・クルーズ主演の映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」でタフなヒロイン、リタを演じていたのが彼女です。アレハンドロ役はプエルトリコ出身の俳優ベニチオ・デル・トロです。ベニチオ・デル・トロは2000年の「トラフィック」でアカデミー助演男優賞とベルリン国際映画祭男優賞を受賞しています。「ユージュアルサスペクツ」での強盗フェンスター役も印象的でした。マット役は「ノーカントリー」や「ミルク」などにも出演しているアメリカ人俳優ジョシュ・ブローリンです。

2018年には続編の「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」も公開されています。続編では前作に続き、アレハンドロ役でベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、マット役でジョシュ・ブローリンが出演しています。

ケイトの目線で観る世界

この映画は犯罪映画で、原題はスペイン語で「殺し屋」というだけあって、全体的に映像が暗く、重苦しい印象の映画です。麻薬の製造、売買に関する活動を行うカルテルという組織がアメリカ、その周辺の国にとっていかに大きな存在であるのかがわかります。トランプ大統領がメキシコの国境に壁を作りたい理由が理解できるほどメキシコやアメリカの裏社会の闇は深そうだと思わざるを得ないストーリーでした。

そんな社会問題の難しい話に加え、主役はエミリー・ブラント演じるケイトだと思って観ていたら、途中からあれ?主役はアレハンドロなの?と思うよなところもあり、さらに頭が混乱しました。エミリー・ブラントの演技は良かったですが、周りを固める俳優の面々がとにかく映画の雰囲気にマッチしすぎて、ちょっと目立っていなかったかな、という印象です。ただこれは制作側の狙いもあったのか、映画を観る側は、どちらかというと正義を守りたいケイトの目線で観ることになるから当然なのかなと思います。

アレハンドロが麻薬王ファウストと対峙し、家族を射殺するラストのシーンの頃には、こっちが主役だったか?とも思いますが、最後まで観終わったあとはやっぱりケイトが主役だったかなぁと、思いながらあらすじを書いたのでなんだか支離滅裂な感じになったかもしれません。その辺の困惑もあり、もう一度観れば理解が深まるかな、と思いましたが、ただとにかく暗いし、残酷な描写もあるので、なかなか観る気にならないです。

メキシコやコロンビア、アメリカの麻薬組織とそれを取り巻く社会の現状を詳しく知らないので、どのくらいリアルに描かれているのかはわかりませんが、関係のない一般市民も巻き込まれたりといった現状もあるようで、ブラジルでオリンピックが開催されたときも治安の問題が重視されていましたが、日本で暮らしているかぎりそんなに感じることはない恐怖というものが、わりと日常なのかなと思いました。CIAが非合法な捜査をして秩序を守ろうとするあたり、現実でも解決しない問題なんだろうなと思わざるを得ないストーリーでした。