日本探偵小説三大奇書の一つ、夢野久作さんの「ドグラ・マグラ」を読み始めものの、いまいち集中して読み進めることができなかったので、ビジュアルの美しさに惹かれ、同じく夢野久作さん傑作集「少女地獄」を先に読むことにしました。

夢野久作「死後の恋」

「少女地獄」の内容紹介に、”夢野久作入門書にふさわしい”とあったとおり、こちらは読み始めてからすぐに物語の中に入り込むことができました。といっても、まだ「死後の恋」しか読み終えていませんが。

傑作集「少女地獄」は、ロシア革命直後に語られる数奇な話「死後の恋」、南の島に流された幼い兄妹の悲劇を綴る「瓶詰の地獄」、満州を舞台に、日本兵と異国の少女の逃避行を描く「氷の涯」、虚言癖の少女、命懸けの恋に落ちた少女、復讐に身を焦がす少女の三人を主人公にしたオムニバス「少女地獄」が収録された短編小説集です。

「死後の恋」は、ロシア革命直後のウラジオストクにて、ある男が、誰ともなく人をつかまえロシア・ロマノフ王朝の宝石にまつわる数奇な体験を語る、という物語です。

ロシア貴族の出身というその男は兵士時代に、リヤトニコフという名のどことなく気品の備わる少年兵と親しくなる。

ある時、リヤトニコフから目がくらむほどの上質なダイヤやルビー、サファイアなどの宝石を見せられる。

その後まもなく、他国の侵攻により彼らが所属する部隊は壊滅。

その混乱のさなか、彼はリヤトニコフが持っていた宝石を奪おうと考え、はぐれていたリヤトニコフを森の中で見つけるが、リヤトニコフは惨殺されていた。

そして宝石は銃に込められ、リヤトニコフの身体深くに撃ち込まれていた。

リヤトニコフの死体を見て、彼はリヤトニコフが女性だった事を知る。さらにリヤトニコフは自分に恋をしていて、宝石がふたりを結びつけたのだと思うようになる。

そして彼は、少年兵リヤトニコフとは、虐殺から逃れたと噂のある、アナスタシア皇女その人ではなかったのか・・・という考えに取り憑かれるのだった。

最後のロシア皇帝ニコライ2世の第四皇女アナスタシア

アナスタシア皇女(アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ)は、最後のロシア皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の第四皇女です。ニコライ2世は、1891年の日本でおこった大津事件で警察官・津田三蔵に突然斬りつけられ負傷した人物(当時ロシア帝国皇太子)です。

アナスタシア皇女は1917年の二月革命で家族とともに監禁され、翌1918年7月17日に、家族、従者とともに17歳で銃殺されているそうです。

ちなみに、皇帝一家が埋葬された場所が長年の間、知られていなかったため、殺害後に彼女の生存説があったそうです。エカテリンブルクの殺害実行者の中に、皇帝一家に同情する人物がいて、密かに家族の何人かを逃したという”アナスタシア伝説”です。

数多くの女性が自分がアナスタシアであると主張し、その中で最も知られているアンナ・アンダーソンにおいては、アンダーソンの主張に影響されて制作された映画『アナスタシア』で、主演のイングリッド・バーグマンがアカデミー賞を受賞しています。

しかし、1991年に両親と3人の大公女の遺骨が発掘され、さらには2007年に弟のアレクセイと歳の近い姉のマリアもしくはアナスタシア、どちらか1人の大公女の遺骨も発見された結果、皇帝一家は一人も生存していないことが明らかになっています。

世界史は勉強してこなかったので、あまり知識がないため、ロシア革命についてももっと知りたい、と思います。また、アマゾンプライムのオリジナル作品の中「ロマノフ家の末裔 ~それぞれの人生~」という作品があるので、これをきっかけに観てみようと思いました。

また、島田荘司さんの「ロシア幽霊軍艦事件」という作品も、アナスタシアの辿った軌跡をフィクションを交えて追うストーリーということで、こちらも要チェックです。あれやこれやと読みたい本や観たい映画、ドラマが増えてきて大変だ~、と作品から作品へとつながる面白さを最近実感しています^^

「死後の恋」は青空文庫でも読めます。また角川ホラー文庫の「あやかしの鼓―夢野久作怪奇幻想傑作選 」や新潮文庫「死後の恋: 夢野久作傑作選」などにも収録されています。