吉田修一さんの短編集「犯罪小説集」が『楽園』というタイトルになって映画化という情報があったので、早速「犯罪小説集」を読んでみました。

マスコミを騒がせた事件がベースの物語

吉田修一さんの「犯罪小説集」には、五つの犯罪にまつわる小説が収録されていて、映画『楽園』では、そのうちの「青田Y字路」「万屋善次郎」を組み合わせた物語が展開されるそうです。

2つの物語は、小さな町のY字の分かれ道で起こった少女失踪事件、その12年後に再び同じY字の分かれ道で少女が姿を消す、という事件と、そのY字路に続く集落で、村八分になり孤立を深めていく男が、正気を失い恐ろしい事件を起こし・・・というストーリーでまとまっているようです。

「青田Y字路」の少女失踪事件で、事件の容疑者として、住民の疑念から追い詰められていく青年・中村豪士を綾野剛さんが演じられるそうですが、ちょっと影のある雰囲気がぴったりだな、と思いました。

原作では、ほぼ犯人だろう、という最後なのですが、彼だけを責められない、というか、もちろん悪いことは悪いのだけれど、そこに至るまでの経過は周囲の大人にも責任があるような気がするし、決して他人事ではないと、思わないといけないことだと感じました。

「青田Y字路」「万屋善次郎」どちらの事件も、どこかで聞いたことあるような事件で、ちょっと調べてみると「青田Y字路」は、1979年以降、栃木県と群馬県で発生している誘拐および殺人事件”北関東連続幼女誘拐殺人事件”が元ネタなのでは、という情報がありました。

また「万屋善次郎」は、2013年におこった”山口連続殺人放火事件”が元ネタのようです。こちらは比較的最近の事件で、さらに私が住んでいる県に近いため、なんとなく覚えています。とはいえ、今回あらためて事件のことを調べてみると、たしかに・・・。

どちらも、周囲の人との関わり方が影響した事件で、誰の身にも起きるかもしれない、よくある話という意味で怖いとも思いました。

原作者、吉田修一さんの『さよなら渓谷』『怒り』という作品は読んだことがあるのですが、映画は観たことがないので、こちらも機会があれば観てみたいです。そして読んではいないのですが『横道世之介』も吉田修一さんの作品ということで、青春小説も書かれる方なんだ、とちょっとだけ意外に感じました。といっても内容は知らないのですが。

ちなみに映画『楽園』の監督は、2016年公開の映画『64-ロクヨン- 前編/後編』の瀬々敬久監督です。映画『64-ロクヨン- 前編/後編』も少女誘拐殺人事件がベースの物語で、綾野剛さん、佐藤浩市さんが出演されていたのでちょっと印象がダブってしまいます。

でも主題歌が『君の名は。』や『天気の子』などの映画音楽を手掛けるRADWIMPSの野田洋次郎さん作詞・作曲で、上白石萌音さんが歌われるそうなので、映像とどんな風にマッチするのか楽しみです。

「犯罪小説集」に収録の作品

映画に関連した物語は上記2つですが、「犯罪小説集」には他に、「曼珠姫午睡」「百家楽餓鬼」「白球白蛇伝」が収録されています。

「曼珠姫午睡」は、女が保険金目的でパトロンの男を、別の男に殺させるという”首都圏連続不審死事件”、「百家楽餓鬼」は、大企業の御曹司がギャンブルにのめり込み、会社の金を横領するという物語で、モデルは”大王製紙事件”です。

「白球白蛇伝」は、プロの野球選手として栄光を掴んだ男が、引退後も見栄のために浪費し続け、最後は借金申し込みを断った相手を手にかけてしまうという物語で、モデルは”元千葉ロッテマリーンズ投手強盗殺人事件”ではないか、ということです。

ただしこれはあくまで噂なので、あくまでも「犯罪小説集」はフィクションだということをお忘れなく。吉田修一さんのインタビュー記事でも「もちろんそのままじゃなく、あくまでベースです。」とコメントがありました。

今のところ、「青田Y字路」「万屋善次郎」「曼珠姫午睡」しか読んでいないのですが、どの事件も、というか、どの物語も現実味を強烈に感じて、面白いっちゃあ面白いけど、特に映画の原作となっている「青田Y字路」「万屋善次郎」は読後感は決していいものではなく、残りの2編を読むのをちょっと考えてしまう。

まあ”大王製紙事件”に関しては、有罪判決を受け収監された井川意高さんは、最近テレビでお見かけしお元気そうだったので、ワイドショー気分で楽しめそうな気もするけど。

逆に「白球白蛇伝」という元プロ野球選手の強盗殺人事件に関しては、ちょっと考えさせられます。プロ野球に限らずですが、プロスポーツ選手のセカンドキャリアを周りの人も大切に考えてほしいですね。

私は「犯罪小説集」の中で、この「白球白蛇伝」が一番心に残りました。罪を犯してしまった人の家族、特に子どもに対して周囲の大人がとる態度に嫌悪感を覚えました。ラストではせつなすぎて、久しぶりに本を読んで涙を流しました。