警察組織の人間模様、マスコミとの対立が描かれたサスペンス。ハードボイルド、刑事ものが好きな方におすすめです。

映画「64-ロクヨン-前編」のあらすじ

昭和64年1月5日。群馬県玄武市で漬物工場を経営する雨宮芳男の長女・翔子が何者かに誘拐された。犯人からは、身代金2000万円の要求と、その現金を丸越百貨店にある一番大きなスーツケースに入れるよう指示する電話があった。

群馬県警の三上と松岡は雨宮宅へ向かう。雨宮宅ではすでに自宅班の柿沼、幸田、日吉も逆探知ができるよう、電話番として待機していた。

ところが、逆探知の準備をしていた自宅ではなく、漬物工場の事務所にサトウと名乗る男から、身代金受け取り場所を指示する電話が入る。

翔子の父親、雨宮芳男が車を運転し、後部座席に追尾班の松岡が隠れて乗り込む。さらに他の捜査車両も雨宮の運転する車を追尾した。

雨宮が犯人から指定のあった喫茶店に行くと、そこに電話がかかり、その後犯人は次々と落ち合う場所を変更した。雨宮と追尾車は指示される場所へ車を走らせる。

そして6軒目に根雪山の旅館を指定され、山間部に車を何台も追尾させるわけにはいかないので、松岡の指示で1台に減らす。

最終的に犯人からは、元来た道の川にスーツケースを落とすよう指示があり、雨宮は犯人の指示通りにした。

翌日、スーツケースを回収しようとしていた男を刑事たちが確保するが、その人物は誘拐とは無関係で、スーツケースの中身はすでに空になっていた。

そして昭和天皇の崩御のニュースが、全国に大々的に流れ、「平成」という新たな元号が発表された同じ日に、翔子は廃車場の車のトランクの中で、遺体で発見される。

しかし事件は昭和と平成という時代のはざまで、注目されることもなく埋もれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

そして舞台は平成14年12月。

三上はこの日、妻の美那子と青森の警察署の遺体安置室を訪れていた。その頃三上の娘あゆみは行方不明だったのだが、その日訪れた青森の身元不明の女性は、あゆみではなかった。

警視庁に戻った三上は、県警広報室と記者クラブのトラブルの対応にあたる。かつては刑事部所属の刑事だった三上は、現在は警務部秘書課広報室広報官だった。広報室と記者クラブのトラブルの原因は、ある主婦が車で老人をはね、重傷を負わせたという事故だった。

加害者の主婦は妊娠8か月で、県警は母体を気遣うという理由から名前を公表しないことを決めていた。しかし記者クラブ側は、警察が勝手に判断して名前を非公開にすることはおかしいと抗議した。

しかし三上は「書かれない権利もある」と言い、それでも食い下がる記者たちに、これは決定事項だとはねつける。実は加害者を匿名にするというのは県警の上層部の決定事項で、三上はそれ以上何も言えなかったのだ。

上司である警務部長の赤間から、「警察庁長官がロクヨンの視察に来る」伝えられる。ロクヨンとは、雨宮家の少女・翔子の誘拐殺人事件のことだった。

三上は赤間に、被害者遺族宅への長官の慰問許可を取りつけてくるよう命じられ、14年ぶりに雨宮家を訪問する。

三上は警察庁長官の視察の話を雨宮に話すが、脳梗塞で妻も亡くしていた雨宮はその申し出を断る。そのとき三上には、雨宮が警察に恨みを抱いているのではないかと感じられた。

警視庁に戻った三上は、記者クラブから「加害者の主婦の実名を出さなければ、警察本部長に抗議文を出す」と言われる。一方上司の赤間からは「記者の管理が行き届いていない」と責められる。

三上が加害者匿名報道に他に理由があるのかと赤間に聞くと、「加害者は県警公安委員の加藤卓蔵の娘」だと言われる。さらに「はねた老人は1時間前に死んだ」聞かされるが、記者には言わないようにと釘をさされる。

三上は記者クラブを煽動する東洋新聞の秋川の上司に連絡をし、別の事件でスクープを与えるようにするが、上手くいかず、記者クラブのメンバーが大挙して県警本部長の部屋へと押しかける。

本部長の部屋のドアの前で記者たちと揉み合いになった三上は、衝動的に記者たちの抗議文を破ってしまい、秋川から「記者クラブは今後警察に協力できない、長官の視察のぶらさがりをボイコットする」と言われる。

三上は、雨宮がなぜ警察に心を閉ざしているのか知るために、警察をやめ農業をしている当時の捜査員・望月に会いに行く。

そこで、三上は望月から「幸田メモ」のことを聞く。幸田とは誘拐事件のとき、雨宮の自宅で電話番をしていた捜査官幸田一樹のことで、その幸田は誘拐事件の半年後に退職していた。

三上は当時、事件の捜査員で現在は刑事部捜査一課長の松岡に会いに行き、「幸田メモ」のことを聞くが教えてもらえなかった。

次に三上は、64の担当だった婦警・村串みずきに会い、事件当時、雨宮家で科捜研から派遣され、幸田と一緒に電話担当をしていた日吉が泣いていた、ということ聞く。

そこで三上は、日吉の自宅を訪ねる。日吉の母が言うには、日吉は事件以降、14年間ずっとひきこもったままで、家族も誰も会っていないということだった。

当時、人の役に立ちたいからとNTTから転職した日吉だったが、現場で無能呼ばわりされたのだ、と母親は訴える。三上は日吉の母親に自分の娘も引きこもっていた、と話す。

三上が日吉家から帰る際に、村串みずきから電話が入り、妻・美那子の様子はどうか、と聞かれる。三上家では、引きこもりの娘あゆみが、ある日美容整形を望み、それに怒った三上があゆみに手をだし、その後あゆみは行方不明になっていたのだった。

三上は次に当時の事件を担当していた柿沼に会いに行き、「幸田メモ」のことを聞き出そうとする。そのとき柿沼の視線の先には、警察を辞めてスーパートで警備員をしている幸田がいた。柿沼は、14年間幸田を見張っていたのだった。強引に動こうとする三上に観念した柿沼は、幸田メモの内容を話しはじめる。

事件は、公式には犯人の電話は「自宅に2回、工場に1回」とされていた。しかし本当はもう1本あり、日吉が逆探知する際に戸惑ってしまい、犯人の声を録音し損ねるというミスがあった。

幸田はそのミスを上に報告するべきだと主張したが、自宅班長・漆原は「口外するな」と言い握りつぶした。ところが幸田は犯人からの電話を録音できなかったというメモを残していた。しかし県警ぐるみでその事実を隠蔽し、その後警察を辞めた幸田が余計なことを言わないように監視していたのだった。

三上は幸田に会いに行き、話しかけるが幸田の妻と子が迎えにきたため、その場をあとにする。

三上は再び雨宮宅に行き、仏壇に手を合わせていると、そこには幸田の香典があった。三上は、長官の視察の受け入れをお願いしながらも、家出した娘・あゆみのことを思い、娘を亡くした雨宮の気持ちを思い、逃げるように外に出た。

三上を追ってきた雨宮は、三上に「お子さんは?」と問いかけ、警察庁長官の視察を受け入れるといった。

一方、記者クラブとの関係改善のため、広報室の諏訪は部下の婦警・美雲と一緒に通信社を接待していた。電話でそれを聞いた三上は、美雲をホステス代わりに使うなといい、美雲を連れ戻しに店まで行く。

美雲は自分の職務として自分の意志で参加したと言い、私を綺麗な部分に使って、自分に汚れていない気持ちがあると思うために私を身代わりにしないでほしいと言われる。

翌日、警察の不祥事の記事が東洋新聞に掲載される。それは刑事部と警務部の確執で秋川に漏れたものだった。記者クラブ内では東洋新聞の秋川が浮き始めていた。

刑事部長の荒木田に呼ばれた三上は、今度の長官視察の真の目的は64の解決などではなく、東京のキャリア官僚を県警の刑事部長にするためだと知る。

三上が自宅に帰ると、家の前で幸田が待っていた。幸田は三上に「長い悪い夢から覚めた気分です」と言って立ち去る。

家で妻の美那子に「あなたは人のことを、自分のことのように考えていた」と言われた三上は、14年ものあいだ引きこもっている日吉に「君のせいじゃない」とだけ書いた手紙を届ける。

長官視察の前に記者クラブとの関係にケリをつけるため、三上は実名発表を原則とする約束をしようと決める。蔵前、諏訪や美雲は土下座でもなんでもして、うやむやにしたほうがいいと言うが、三上の決意は揺らがなかった。

記者クラブで三上は「今後は実名を原則とする、交換条件はない」と言う。そしてそれは自分の判断で決めたと言った。それでも東洋新聞の秋川は、「原則を外せ」と突っぱねるが、他のメンバーは三上の話を聞く態度を出し始める。

三上は、交通事故の加害者の主婦の実名を発表する。加害者の菊西華子はキングセメントの会長の娘で、事故のショックで錯乱状態であること、そして被害者の銘川亮次は事故後に死亡したことを話した。

やっぱり県警に都合の悪いことを隠していたと記者らは食ってかかるが、三上は「ずっと戦っていたいなら、次に広報官になる人物と一からやりあえ」と流し、さらに被害者、銘川亮次の詳しい情報を話し始める。出勤前、三上は日吉宅だけでなく、被害者の銘川宅も見に行っていたのだった。

被害者の銘川は北海道苫小牧出身で、現在は年金暮らし、8年前妻とも死別し、子はおらず、月に1度の楽しみが立ち飲み屋で飲むことで、その帰り道に事故に遭ったのだった。家族はすでに死亡しており、遠縁は遺骨の受け取りを拒否していた。

今回の件で銘川の死亡記事は出ておらず、多くの人が銘川の死を知らない…ここまで話したところで、三上は64のことを始める。

そして「遺族はまだ昭和64年の7日間に取り残されている。長官の取材を受け入れてほしい。俺個人のお願いだ」と言った。記者クラブのメンバーは三上の気持ちを受けいれ、「長官の取材は承諾する、新しい広報官は必要ない、それがクラブの総意だ」という結論を出す。

長官視察前日に三上は、刑事部捜査一課に電話番一人で、だれもいない、ということを耳にする。

刑事部の部長と捜査一課長を見つけ、ドアを開けると、そこには警務部以外の全セクションが集合していた。

刑事部捜査一課次席の御倉が「誘拐事件発生。サトウと名乗る人物が2000万円を要求。丸越百貨店の一番大きなスーツケースで運ぶよう指定している。ただちに報道協定を締結するように。」と言った。

犯人の要求は64と同じものだった。

(後半へ続く)

前編、後編の合計上映時間4時間の大作

「64-ロクヨン-」は 前編、後編の2部作で構成された日本のサスペンス映画です。監督は「感染列島」「ヘヴンズ ストーリー」の瀬々敬久さんで、前編は2016年5月7日、後編は6月11日に公開されています。原作は横山秀夫さんの「D県警シリーズ」の第4作目になる小説「64(ロクヨン)」です。

主人公の県警広報官、三上義信を演じるのは、佐藤浩市さんです。そしてロクヨン誘拐事件の被害者家族、雨宮家の父親雨宮芳男は永瀬正敏さんが演じています。そのほかにたくさんの俳優が出演しているので、簡単に紹介します。三上義信の妻、美那子は夏川結衣さん、県警広報室の三上の部下の諏訪は綾野剛さん、蔵前は金井勇太さん、美雲は榮倉奈々さんが演じています。

昭和64年に起こったロクヨン捜査班のメンバー、松岡は三浦友和さん、望月は赤井英和さん、漆原は菅田俊さん、柿沼は筒井道隆さん、幸田一樹は吉岡秀隆さん、日吉浩一郎は窪田正孝さん、村串みずきは鶴田真由さんです。

そして県警本部長の辻内は椎名桔平さん、県警本部警務部の赤間は滝藤賢一さん、石井は菅原大吉さん、二渡は仲村トオルさんです。

警務部と対立する県警本部刑事部の荒木田は奥田瑛二さん、落合は柄本佑さん、御倉は小澤征悦さん、芦田は三浦誠己さん。

記者クラブのメンバー、秋川を演じるのは瑛太さん、手嶋は坂口健太郎さん、髙木まどかは菜葉菜さんなどなどです。その他にも豪華キャストが話題の映画だけに、前編だけでも各シーンにたくさんの方が出演されています。

そして印象的な主題歌は小田和正さんの「風は止んだ」です。

組織や人間関係が複雑に絡み合った物語

この映画は、たった7日しかなかった昭和64年に起こった誘拐殺人事件から始まる物語で、前編ではマスコミ報道と警察の対立が主に描かれています。そしてそこに警察の隠蔽体質や縄張り争いなどが絡んできて、複雑なストーリーへと進んでいきます。

豪華キャストが集結、たった7日しかなかった昭和64年に起こった未解決の誘拐事件、というキャッチーな触れ込みで、公開前からとても興味がありました。映画館では観る機会を得られなかったので、ネット配信で観ましたが、充分楽しめした。というか充分でした。TVドラマのような感じで、わざわざ映画館で観ることもないな、という感想です。

前編、後編で4時間ありますが、テーマをマスコミとの対立か、警察内部の人間関係か、どちらかに絞ったほうがスッキリしてわかりやすいかな、と思いました。両方を描くのであれば、連続ドラマでじっくり観たかったかな、と。あとで知ったことですが、2015年4月にNHKで全5回のドラマで放送されてたみたいで、そちらを観たいです。再放送してくれないかな・・・。

若手からベテランまで、豪華キャストが集結した映画ということで、キャストについての感想になりますが、佐藤浩市さんや永瀬正敏さんの演技は雰囲気があり、さすがだなって思いました。赤井英和さんや小澤征悦さんは他にいなかった?とも思いました。あと榮倉奈々さん、坂口健太郎さんは好きな俳優さんですが、この映画ではなんか役不足感じもしました。若手の役とうことで、浮いてる感じがいいのかもしれませんが。

たくさんの有名な俳優さんが出てるので、ストーリーよりも俳優さんの演技が気になる、そんな映画でした。

続きは後編で。