こちらは映画「64(ロクヨン)」の後編のレビューです。前編はこちら→★
64(ロクヨン)後編のあらすじ
ある暗い雨の夜。電話BOXの中で、電話帳のリストを順に消していく人の影があった。
平成14年12月11日。警察庁長官視察前日に、群馬県玄武市で誘拐事件が発生する。犯人はサトウと名乗り、身代金2000万円を要求。さらに現金は丸越百貨店の一番大きなスーツケースに入れておくよう指示する。
昭和64年に起こった未解決の誘拐事件ロクヨンと同じ内容の犯人からの要求に、広報官の三上は驚く。
刑事部捜査一課次席の御倉から渡された事件に関する書類には被害者の名前が伏せられており、昨日「実名を原則とする」と記者クラブに約束した三上は苦しい立場にたたされる。
三上は誘拐事件が発生したことを記者クラブに発表するが、当然匿名発表に記者たちが騒ぎはじめる。そこで三上は、広報室の蔵前、諏訪、美雲らに「自分が実名を取って来るから、それまでなんとか持ちこたえてくれ」と会場を任せ、その場を去る。
三上はロクヨンの被害者雨宮宅へ立ち寄るが、雨宮は留守だった。三上は、あらたな誘拐事件の対策本部が置かれた玄武警察署へ行き、トイレの個室に潜み刑事部捜査一課長の松岡が現れるのを待った。
三上がなぜ来たかを理解した松岡は、「被害者家族は目崎正人49歳、スポーツ用品店経営。住所は玄武市大田町2丁目246番地…」と口にする。
また松岡は三上に、自宅に無言電話があったかと聞く。三上が頷くと、松岡は三上の妻で元婦警の美那子を捜査に貸してほしいと言った。美那子はロクヨンの時に、捜査員として喫茶店で客のふりをして張り込んでた。
美那子は無言電話が家出した娘・あゆみからの電話かもしれない、といつでも電話を取れるように、外出をしたがらなかったが、三上は情報を提供してもらった松岡に恩を返すために、美那子に人助けであることを強調し、協力をお願いする。
被害者の家族の名は得ることができた三上だったが、誘拐された本人の名前が出なかったことにきづく。県警は誘拐されたのは17歳の女子高校生で、家出や狂言誘拐の可能性もある、と言葉を濁していた。
三上は諏訪に電話をし、諏訪が記者クラブで情報を流した。被害者家族の名前が分かり、記者たちは静かになり、各自調査に動き始める。
被害者家族である目崎家に娘が2人いて、嫌な予感がしつつも三上は再び雨宮家に向かった。そのとき携帯に電話が入ったが、携帯の電池が切れそうだったため、近くにあった電話ボックスに入った。そこで三上は、公衆電話の*ボタンと♯ボタン以外が黒くなっていることに気づく。
三上は不思議に思ったが、とりあえず電話をかけ直し、用件を聞いた。電話の内容は、明日の警察庁長官の視察が取りやめになった、という連絡だった。
三上は夜に雨宮家を訪問し、長官視察が中止になったことを告げて詫びる。雨宮は「分かりました」と答え、逆に疲弊して見える三上に「大丈夫ですか?」と声をかけた。雨宮は家のそばのベンチに三上を座らせ、「きっといいこともあります」と言った。娘が家出中の三上は、雨宮に「事件後どうやって毎日を過ごしてきたのか」と聞いた。
それは誘拐犯に娘を殺された父親には酷な質問だったが、雨宮は翔子が「メーダマ」と言われる枝に餅や団子をつけたものが好きで、どんど焼きを楽しみにしていたので、まだ早いのにメーダマを持たせていたことや、一緒に松飾りを作った思い出を話し始める。
そして「日に日に記憶が消えていきます・・・残るのは、整理のつかない心だけです」と言った雨宮に三上は返す言葉がなかった。
一方、記者クラブでは刑事部による記者会見が始まったが、会見に現れたのは刑事部捜査二課長・落合だったため、記者クラブは騒然となった。記者たちは誘拐事件の記者会見は本来、捜査一課長か刑事部長がすべきものだ、と責める。
誘拐事件ということもあり、記者クラブには各マスコミ本社からも記者が来ていたのだが、本社からきた記者は県警と群馬県の記者クラブをあからさまにバカにした態度だった。そして群馬県の記者クラブメンバーは、警察にだけでなく本社にもバカにされ、屈辱を味わっていた。
そんな険悪な雰囲気の中で始まった記者会見で、現場経験のない若い落合はただただ萎縮していて、広報室が用意した事件概要も読んでおらず、事件を把握できていなかった。見かねた東洋新聞の秋川が、落合から話を聞き出しやすいように質疑応答という形を取り「狂言誘拐ですか?」と質問した。
記者クラブは、目崎家には2人の娘がいること、名前や年齢も突き止めていた。そして目崎家を狙って誘拐をする場合、学校に登校せず引きこもりの17歳の長女・歌澄を誘拐するよりも、11歳の小学生の次女・さきを誘拐するのでは、と記者たちも疑問に思っていた。
しかし、質問された落合はぽかんとしていた。被害者家族の名前すら落合は聞かされていなかったのだった。それを知った記者たちは話にならないと激怒し、話ができる別の者を会見に立たせるよう要求した。
その頃、被害者の目崎宅には松岡たち捜査官がいた。松岡は目崎に無言電話があったか質問した。目崎は、誘拐と関係のない質問に戸惑いながらも「あった」と答えた。
そのとき自宅班の捜査官たちを見ながら、目崎家の次女の早紀は、ある下校時、家まで送ると早紀を車に乗せてくれた男の記憶を振り返っていた。
助手席に乗っていた早紀は、その男が教えた道と違う道を走っていたため、そのことを指摘すると、男は泣きながら「ごめんな、ごめん。うっかりしてた」と言った。男は車から早紀をおろし、「これ、お父さんに渡してくれないか」とメーダマが入っている紙袋を渡した。
そして男は泣きながら「おじさんにも子どもがいた」と、言った。早紀が「もういないの?」と聞くと、男はうなずいた。
・・・その後、早紀は紙袋を父親に渡せずに、自分で持っていた。早紀は部屋に戻って紙袋を開けてみると、メーダマと少女の写真が出てきた。
一方、記者会見場では落合は疲れきって今にも倒れそうな状態で、群馬県の記者団も「悔しい、田舎者扱いで東京にバカにされる」と三上に訴えるなど、いまだ混乱していた。
そしてとうとう記者たちに怒声を浴びせられた落合は、突然机に突っ伏す。会見場に控えていた美雲が救急車を呼ぼうとし、三上も仕方なく記者たちに「捜査一課長を出す」と言いかけたが、そのとき落合が「僕はまだやれます」と言った。そこで三上は、「玄武署に行ってそこから情報をとって流す」と言い、その場を去る。
玄武署で事件の捜査指揮車へ移動していた松岡に、三上は「捜査指揮車に乗せてください」と頼み込む。松岡は「捜査と情報には常にタイムラグが必要。知り得た情報は、最低20分は胸に留めておくこと」と三上に条件を提示し、車に乗り込むことを許可した。
捜査指揮車に乗った三上は、誘拐されているかもしれない歌澄の捜索が手薄なことに気づき違和感を覚える。松岡たちには何か別の目的があって動いているように見えたのだ。
そのとき目崎の自宅へ、歌澄の携帯から電話がかかってくる。犯人はヘリウムガスを吸った声で、「11時50分までに、葵町にある喫茶あおいに金と携帯を持って出てこい」と言った。
目崎は娘の声を聞かせてくれと言ったが無視され、急いで自宅を出た。運転中の目崎の携帯に入る犯人の指示は、途中の省略があるものの、やはりロクヨンを真似したものだった。
ところがしばらくして目崎との通話中にヘリウムガスが切れて犯人の地声が聞こえた。その声を聞いた三上は、その声がロクヨン当時、警察にとって都合の悪い事実を隠蔽され刑事を辞めた幸田のものだと気づく。
その時、捜査指揮車に目崎歌澄が補導されたと連絡が入り、歌澄は誘拐されていなかったことが判明した。歌澄は家出をし、ライブハウスの前で眠りこんだ時に携帯を盗まれていたのだった。
歌澄はディスカウントストアの前で補導されていたが、同じディスカウントストアでヘリウムガスを買おうとしていた幸田は、警察官が集まってきたため、ヘリウムガスを購入することができず、やむを得ず、ガスなしで、なんとか声を変えしゃべり続けた。
歌澄が保護されたことで三上は安堵し、早く目崎に歌澄の無事を知らせるよう怒鳴ったが、松岡は「事件はまだ終わっていない」と三上に呟き、そして黙り込んだ。
三上は脅迫電話をかけてきた犯人が幸田だと気づいたときから、幸田による群馬県警への復讐のための狂言誘拐だと思いはじめていたが、松岡は「この車は、今ロクヨンの捜査指揮を執っている」と言い、三上にはその意味がつかめずにいた。
その間も、何も知らない目崎は犯人の指示とおり車を走らせていた。指定の喫茶店に着いた目崎は、犯人からその店の裏の空き地のドラム缶にスーツケースから金を出して入れろと命令される。さらにドラム缶の横に置いてある一斗缶の油をかけて金を燃やすよう言われ、目崎は実行した。
ドラム缶から火が上がったため、店内にいた警官や、近所の人が集まってきた。目崎は犯人に「歌澄はどこにいるんですか」と聞くと「缶の下だ」と言われため、缶の下にあったメモを読む。
メモには「犯人へ 全て14年前のままだ。娘は小さな棺に入っている。」と書かれていた。歌澄が死んだと思った目崎は号泣する。
そこへ捜査指揮車も到着し、外へ出た三上は、目崎を見る人の群れの中に、雨宮を見つけ、無言電話の意味に気づく。
ロクヨン事件は未解決のままで、犯人の声を録音し損ねた日吉は引きこもりになっていたが、幸田も責任を感じ、雨宮と交流を続けていた。
犯人の声を録音できなかったため、犯人の声を聞いていたのは雨宮だけだった。そして雨宮はその声だけを頼りに、当時のハローワークに載っているリスト順に手あたり次第電話をかけ、その家の「男の声」を聞いていた。携帯の電池が切れそうになった三上が入った近所の電話ボックスで、14年間ずっと犯人探しを続けていたのだった。
三上の家やその他の家にかかってきていた無言電話も雨宮からのものだった。三上の家に電話がかかってきたとき、娘・あゆみからだと思い「あゆみ、無事なのか!?」と声を荒げる三上の声も雨宮は聞いていた。
そして雨宮は14年かけてとうとう目崎正人に辿り着いた。雨宮は次女の早紀を誘拐しようと思い下校中の早紀を車に乗せたが、早紀と自分の娘・翔子をだぶらせ、できなかった。そして目崎家の長女・歌澄の家出のことを知った雨宮と幸田は、歌澄の携帯を盗んで誘拐事件をでっち上げることにした。
芳男と幸田の目的は、14年前の犯人・目崎正人に、娘を亡くした父親の気持ちを分からせ、ロクヨンの犯人だけしか知り得ない情報を引き出すことだった。松岡もここまで読んでいて「事件はまだ終わっていない」と言ったのだった。
お金を燃やし放心状態の目崎のもとに妻・睦子からの電話が入り、目崎は歌澄が誘拐されていなかったことを知った。目崎は、もう一度手元のメモを見て、書かれていることの本当の意味を理解する。そしてそのメモを警察に見られるとやばいと思った目崎は、紙を二つに破って飲みこんだ。
それを見た雨宮は目崎の元へ近寄ろうとしたが、全てを理解した三上が押しとどめ、松岡が目崎を確保した。目崎は娘の無事を喜ぶ父親のフリを装うが、被疑者のように連行され、それを見た雨宮は立ち去った。
確保された目崎は聴取を受けたが、ロクヨン事件の犯人であるという決め手となる確証がない群馬県警は、目崎を解放せざるをえなかった。そのことに三上は憤り、今回の事件をおこした雨宮と幸田の2人は姿を消した。
そして長女・歌澄が帰ってきた矢先に今度は次女・早紀が姿を消した。目崎は第二の誘拐事件だと思い動揺するが、父親が何か隠していると気づいた早紀が、みずから雨宮の漬物工場へ向かったのだった。そして雨宮が帰っていないか確認しに来た三上が、そこで早紀を見つける。
早紀は三上が刑事と知り、「父は、時々うなされてて、怖い目をしています。雨宮さんは、何か父のこと知ってるんじゃないんですか」と問う。
そこで三上は、早紀を車に乗せ、目崎の家に電話をかけ、「小さな棺」「来い」とだけ目崎に言った。そして電話を切って、松岡に電話をかけ「目崎が消えたなら、琴平橋か死体遺棄現場の可能性がある」と知らせた。
マスコミに家を取り囲まれていた目崎は通話後、裏口から車で出た。一方東洋新聞の秋山は目崎家を張っていたが、警察の覆面車両が出て行くのを見て、あとを追った。
ロクヨン当時のことを思い出しながら目崎は、廃車場へ行きトランクを開けようとした。そこに三上が近寄り、「娘を探しに来たんじゃねえのか」と声をかけて、トランクを開けた。
トランクは空で、気を緩めた目崎に、三上は「14年前お前の娘は2歳。どうして人の娘を殺せる!?」と責め、「ロクヨンの遺体遺棄現場が廃車場のトランクだということを知っているのは、当時の事件に関与した遺族と捜査員と犯人だけだ」と言い、目崎に暴行する。
その後、到着した刑事たちに連行される目崎を早紀が見ていて、自分の父が殺人犯であることを察した早紀は号泣。こうしてロクヨンと目崎家誘拐事件は解決し、幸田も自首した。また、録音ミスをして14年間引きこもっていた元科捜研の日吉はラジオニュースを聞き、泣きながら部屋を出た。
目崎に暴行した三上は警察をやめることを決め、記者クラブへ挨拶もせず立ち去る三上を見た秋川は、諏訪たちに「残ったお前らがこれから広報支えるんだろう」と声をかける。
平成15年1月15日。三上と妻・美那子はしめかざりを焼くどんど祭りに参加し、そこで雨宮と会う。雨宮は三上に「明日、出頭します」と報告し、三上は早紀から預かっていた紙袋を芳男に渡した。それはメーダマと芳男の娘・翔子の写真、松飾りだった。松飾りを炎にくべ雨宮は去る。
その頃、三上の自宅に公衆電話からの着信が入っていた。それをまだ知らない三上と美那子は、2人でどんどの炎を見上げ、娘・あゆみを探し、向かい合うつもりでいた。
後編からの登場人物
後編からあらたな誘拐事件の被害者家族の目崎正人役で緒形直人さん、刑事部捜査二課長・落合役で柄本佑さんが出演されます。また誘拐事件の捜査員として忍成修吾さんもちらりと出演されています。
そして結末は原作とは異なる終わり方なんだそうです。
感想
後編はロクヨンを模倣した誘拐事件が発生。その被害者家族として、緒形直人さんが登場しますが、緒形直人さんが、とても良かった。私は昔の優しそうなというか、弱そうなイメージしかなかったので、意外な役どころでしたが、ハマっていました。反対に奥田瑛二さんの演技ってあんまり観たことなかったのですが、他のベテラン俳優さんの中でイマイチな感じがしました。逆に他の作品で観てみたい、と思うほど。
そしてストーリーは、やはり記者会見の記者さんたちの人間関係がわかりにくかったり、と多少の不満がありました。あとあと本社からの記者と県所属の記者たちが仲が悪いわけね、と理解しましたが、こういうマスコミとの揉め事を切り捨てて2時間くらいの映画にする、というのはどうだろう、なんて思いました。原作ファンからはありえない、と突っ込まれそうですが。
あと、なぜ柄本佑さんが机に突っ伏すシーンだけ、あんなコミカルな感じにしたのか。普通でいいのに、なんかいきなりそこだけ演出が気になりました。この映画にそんなしょうもない笑いはいらない、って感じです。笑うところじゃないのかもしれませんが。
全体的に、察して、感じ取って、これぐらい説明しなくてもわかるでしょ、というようなところが多く、世間知らずの私にはちょっと難しく、前提を知っておかないと面白さは半減する作品なのかもしれませんね。全体的に悪くないんですけど、中途半端に暗い、って感じでした。そして実名を公表しろというマスコミだけが、どうしても受け入れられませんでした。