「ポケットに手」で屈辱を与えた中国外交局長は何を狙ったのか

中国外交部の劉勁松アジア局長が、日本外務省 金井正彰局長を“両手をポケットに入れたまま”見送った映像は、SNSで瞬く間に拡散し、日本国内で大きな反発と話題を生んだ。外交儀礼では相手への敬意を示すため「手を出す/姿勢を正す」ことが基本であるため、この態度は“軽視”“侮辱”と受け取られやすい。

さらに会談自体も、日本側首相発言の「台湾有事への関与」に関する攻防で極めて緊張感が高かったと報じられている。そのため、ポケットに手の姿勢には「不満の表明」「外交的圧力」の性格が強くにじむ。

しかし、問題はここで終わらない。むしろ本質は、この“強硬ジェスチャー”の直後に起きた行動にある。

その直後、劉氏は日系企業を訪れて“抱擁”―なぜ180度違う態度を見せたのか

会談直後、劉局長はすぐに遼寧省大連にある日系企業を訪問し、事業状況を丁寧にヒアリング。その視察終了時には責任者と抱擁を交わし、「中国で安心して事業活動を続けてほしい」と伝えた。

外交席では威圧的姿勢、企業訪問ではフレンドリー姿勢――この落差は何を意味するのか。

結論からいえば、中国政府は「政治の対立」と「経済の悪化」を明確に切り離したいという意図がある。

中国は現在、内需減速・外資離れ・不動産不況など複数の経済不安に直面している。そのため、政治摩擦により日本企業が撤退する事態は避けたいのが本音だ。

中国政府が避けたい主なリスク

中国政府が避けたい事態 背景
外資撤退の加速 内需低迷で投資誘致が必須
サプライチェーン分断 輸出産業の競争力低下につながる
日系企業の縮小・撤退 地域経済に影響が出るほど日系企業の比率が高い省も存在
国際社会への悪印象 「中国は投資リスクが高い」という評価が強まっている

つまり、劉局長は“外交では強硬、経済ではフレンドリー”という両面作戦を取っている。
それは、政治対立が激化しても外国企業は逃さない――という国家戦略に基づく行動である。

外交では強硬姿勢を堅持、しかし経済では「日本企業が必要」

中国政府は外交のメッセージと経済のメッセージを明確に分けて発信している。

中国政府が示した主な動き

  • 呉江浩駐日大使が経団連会長と会い、経済交流の重要性を強調
  • 李強首相が輸入博覧会で外国企業に対し積極的な投資を呼びかけ
  • 劉勁松局長が日本企業へ“安心して事業を続けてほしい”と直接伝達

しかし、その一方でカルチャー分野では明確な「冷却化」が進行。
浜崎あゆみ、ももクロ、バンダイナムコ系イベントなど、複数の日本関連イベントが直前中止になっている。

専門家は「次に製造業への影響が広がる可能性」を指摘し、レアアース規制なども懸念されている。

日本企業が今後しておくべきこと

現在の中国は「政治は強硬、経済は友好」という二重メッセージを発しているため、日本企業は“政府の言葉だけで安心する”のは危険だ。

日本企業が取るべき主な対策

  • サプライチェーンの再点検と多元化
  • 現地情勢の情報収集を強化
  • 投資判断は政治リスクを織り込んで再計算
  • 現地スタッフの安全確保と危機管理体制の整備

これらを整えることで、“どちらに転んでも対応できる状態”をつくることが最重要となる。

結論:中国は日本に「強硬と友好」を同時に突きつけている

今回の劉勁松局長の一連の行動は「外交で圧力をかけながら、日本企業は手放さない」という中国の複雑な本音を象徴している。

政治的対立は避けがたい流れにあるが、経済面では日本企業を引き止めたい。
この矛盾の中で、“甘いメッセージだけで安心できる時代ではない”ことが浮き彫りとなっている。

中国は巨大市場である一方、最も政治リスクの高い市場でもある。
今回の出来事は、両国関係が単なる友好・対立の二元論では語れない段階に入っていることを示している。

参考にした情報元(資料)